相続配偶者居住権設定登記
イントロダクション
- 被相続人の配偶者の生活を守る配偶者居住権
配偶者居住権の種類・活用場面・成立要件・権利内容・登記の説明
- 配偶者居住権設定登記の登録免許税
登記申請の際に納付する登録免許税に関する説明
- 配偶者居住権設定登記の必要書類など
当事務所にご依頼いただく場合の必要書類などのご案内
配偶者居住権設定登記のご依頼・ご相談
配偶者居住権設定登記のご依頼・ご相談につきましては、当コンテンツの登記申請のご依頼・ご相談をご覧下さい。
被相続人の配偶者の生活を守る配偶者居住権
配偶者居住権とは、故人(被相続人)の死亡時(相続開始の時)に被相続人所有の建物に居住していた生存配偶者に、その居住建物に無償で生活できる権利を一定要件の下に確保する権利です。
配偶者居住権の種類
配偶者居住権は、配偶者(長期)居住権と配偶者短期居住権の2種類があります。このうち登記をすることができるものは「配偶者(長期)居住権」です。
なお、どちらの権利も第三者に譲渡することはできません。相続の対象になることもなく、配偶者の死亡により消滅します(一身専属権)。
- 配偶者(長期)居住権
夫婦の一方が亡くなった後、残された配偶者が住み慣れた(被相続人所有だった)住居で無償で生活を続けることができる権利です。相続人全員の合意による遺産分割や被相続人の遺言などで定めることにより、配偶者は配偶者(長期)居住権を取得できます。原則として配偶者の終身の間、権利が存続します。
- 配偶者短期居住権
夫婦の一方が亡くなった後、残された配偶者が最低でも6か月間は住み慣れた(被相続人所有だった)住居に無償で住み続けられる権利です。遺産分割や遺言などで定めることは必要なく、当然に成立する権利です。
ここでいう「無償」とは、建物の所有者に対して家賃を負担しなくても良いという意味です。修繕費や固定資産税などの通常の必要費は配偶者の負担となります。
配偶者(長期)居住権と配偶者短期居住権の比較
配偶者(長期)居住権と配偶者短期居住権は、どちらも相続開始時に被相続人所有の建物に居住していた配偶者が引き続きその居住建物に無償で住み続けることができる権利ですが、次の表のとおり、成立要件や権利内容が一部異なります。
比較事項 | 配偶者(長期)居住権 | 配偶者短期居住権 |
---|---|---|
成立要件 |
| - |
存続期間 | 配偶者の終身の間 期間を定めることも可 | 以下のうち最も遅い日まで
|
登記 | できる | できない |
配偶者が建物の一部に居住していた場合 | 建物全部に権利が及ぶ | 居住していた部分にのみ権利が及ぶ |
建物賃貸 | できる
| できない
|
当ページでは、以降、登記のできる「配偶者(長期)居住権」を説明いたします。
配偶者居住権の活用場面
配偶者居住権は建物所有権よりも低額と評価されます。したがって、法定相続分を基準に遺産配分を考えた場合、配偶者にとって、建物所有権よりも配偶者居住権を取得したほうが、預貯金等の遺産をより多く取得できることになります。すなわち、配偶者居住権を設定することにより、配偶者の居住の安定と生活資金の両方の確保を図ることが可能になります。
また、配偶者居住権の活用によって、後に配偶者が死亡した場合の相続手続の負担を軽減させることもできます。例えば、建物所有権を配偶者が取得した場合に、その配偶者が亡くなったときは、建物所有権について遺産分割協議や相続登記の手続などが必要となります。それに比べ、建物所有権を同居する子が相続して配偶者が配偶者居住権を取得すれば、配偶者が亡くなって相続が開始した場合に、建物所有権についての相続手続が不要となります。
配偶者居住権の成立要件
配偶者居住権は、次の要件を満たす場合に成立します。
- 令和2年4月1日以降に被相続人が死亡して相続が開始したこと
- 相続開始時に、配偶者が被相続人所有の建物に居住していたこと
- 被相続人が配偶者以外の者と居住建物を共有していないこと
- 被相続人と配偶者が同居していたかどうかは要件とされません
- 次の1.から4.のいずれかの意思表示等が存在すること
- 遺産分割協議により、配偶者取得権を取得するものとされたこと
- 遺産分割審判により、配偶者取得権を取得する旨を定められたこと
- 被相続人の遺言により、配偶者居住権が遺贈されたこと
- 被相続人との死因贈与契約により、配偶者居住権を贈与されたこと
- 被相続人と配偶者以外の者が居住建物を共有していないこと
配偶者居住権の内容
配偶者居住権の内容は次のとおりです。
- 配偶者居住権は、原則として配偶者が亡くなるまで存続します
- 存続期間を定められる(定める)こともありますが、その場合は延長や更新をすることができません。
- 居住建物を無償で使用できます
- ここでいう「無償」とは、建物の所有者に対して家賃を負担しなくても良いという意味です。固定資産税や経年劣化による修繕費などの通常の必要費は配偶者の負担となります。
- 配偶者居住権は、建物全体に効力が及びます
- 従前は建物の一部に居住していた場合でも、建物全体を居住スペースにすることができます(下記4.の例外)。ただし、被相続人が生前に賃貸して賃借人が使用している部分や、区分所有建物の共用部分・非居住の専有部分については、居住スペースにすることができません。
- 居住建物はこれまでと同一の用法で使用しなければいけません
- 例えば、従前は建物の一部のみに居住し残部を店舗にしていた場合に、店舗部分を拡張することはできません。
- 建物所有者の承諾があれば、居住建物を第三者に貸すことができます
- 建物所有者の承諾があれば、居住建物の増築・改築をすることができます
- 建物の使用にあたり、建物を借りて住んでいる場合と同様の注意を払う必要があります(善管注意義務)
配偶者居住権の登記
配偶者居住権が成立した場合、相続・遺産分割・遺贈・死因贈与により建物所有者となった方には、配偶者に対し、配偶者居住権の設定登記をする義務が発生します。
配偶者居住権の設定登記を申請する前提として、相続・遺産分割・遺贈・死因贈与による建物所有者への所有権移転登記を申請する必要があります。
配偶者居住権設定登記の登録免許税
配偶者居住権設定登記の申請の際に必要な登録免許税は、建物評価額の0.2%です。
配偶者居住権設定登記の必要書類など
配偶者居住権の設定登記の申請について、当事務所にご依頼くださる場合の必要書類など(主なもの)をご案内します。
基本書類
必要書類 | 有効期限 |
---|---|
被相続人の配偶者様の運転免許証などの本人確認書類 | 各書類の有効期限内 |
被相続人の配偶者様の印鑑(認印でも可) | - |
被相続人の配偶者様の戸籍謄本等 ※被相続人の配偶者であったことが分かるもの | - |
被相続人の配偶者様の住民票 | - |
建物の登記情報が分かる書面 | - |
遺産分割協議により配偶者居住権を設定した場合
遺産分割協議により配偶者居住権を設定する場合、上記の基本書類などに加え、下記の書面などが必要になります。
必要書類 | 有効期限 |
---|---|
遺産分割協議書 ※配偶者居住権を配偶者に取得させる旨の記載のあるもの ※遺産分割協議書作成のご依頼も可能です | - |
被相続人の出生から死亡までの除籍謄本等 | - |
被相続人の住民票除票/除籍の附票 | - |
相続人全員の戸籍謄本・住民票・印鑑証明書 | - |
相続放棄者がいる場合、相続放棄申述受理証明書 ※相続放棄手続書面作成のご依頼も可能です | - |
建物を取得した所有者様の運転免許証などの 本人確認書類 | 各書類の有効期限内 |
建物を取得した所有者様の印鑑(実印) | - |
建物を取得した所有者様の印鑑証明書 | 発行後3カ月以内 |
建物を取得した所有者様の登記識別情報 ※既に所有権移転登記を完了している場合にのみ必要 | - |
相続手続全般についてご依頼いただく場合は、次の書面も必要です。
必要書類 | 有効期限 |
---|---|
相続不動産の登記情報が分かる書面 | - |
被相続人の預貯金通帳全部 | - |
被相続人名義の株式・出資などが把握できる書面 | - |
被相続人名義の保険・共済加入が把握できる書面 | - |
被相続人名義の自動車登録証・車検証 | - |
その他、被相続人名義の財産が把握できる書面 | - |
被相続人の債務が把握できる書面 | - |
遺贈により配偶者居住権が設定された場合
被相続人の遺言により配偶者居住権を遺贈された場合、上記の基本書類などに加え、下記の書面などが必要になります。
必要書類 | 有効期限 |
---|---|
被相続人様の遺言書 ※配偶者居住権を配偶者に遺贈する旨の記載のあるもの | - |
被相続人様の死亡の事実が確認できる戸籍謄本等 | - |
遺言執行者が選任されていない場合
| 本人確認書類 各書類の有効期限内 印鑑証明書 発行後3か月以内 |
遺言執行者が選任されている場合
| 本人確認書類 各書類の有効期限内 資格証明書 印鑑証明書 発行後3か月以内 |
法務局で保管されていない自筆証書による遺言書の場合、家庭裁判所での検認手続が必要となります。なお、検認手続申立に関する書類の作成を、当事務所にご依頼いただくことも可能です。