不動産相続に関する税金
イントロダクション
- 不動産相続に関する税金の概要
相続により不動産を取得する場合に課税される税金に関する説明
当ページの流れについて- 相続税が課税されるかの簡易チェック
相続税が確実に課税されない場合の説明
相続税の基礎控除について- 相続税の算出
相続税の3段階の計算方法に関する説明
仮相続税額・相続税総額・各相続人の相続税額の各計算について- 相続税の節税知識
相続人が相続後に行う節税対策に関する説明
相続税の税額控除・不動産に関する特例措置・相続財産を譲渡した場合の取得費の特例の活用について
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不動産相続に関する税金の概要
相続により不動産を取得することで、様々な税金を支払う必要があります。
課税理由 | 税目 |
---|---|
不動産取得 | 登録免許税 |
相続税 | |
不動産保有 | 固定資産税 |
都市計画税 |
当ページについて
当ページでは、相続があった場合に課税されることのある相続税について、相続税が課税されるかの簡易チェック・相続税の算出・相続税の節税知識の3テーマに分割して概説します。
相続税が課税されるかの簡易チェック
相続税は、次の場合には確実に課税されません。
- 相続財産(不動産以外も含めた)が3,600万円以下の場合
- 相続財産(不動産以外も含めた)が1億6,000万円以下で、被相続人の配偶者が遺産分割などにより全部取得する場合
上記のいずれにも該当しない場合、第2段階として「相続税の基礎控除額」を確認し、相続税が課税されるか否かを大局的に判断します。
相続税が課税されるケースは、全体の8%にすぎません。
相続税の基礎控除
相続税には「基礎控除」があり、基礎控除額を超える相続財産部分のみ課税対象となります。
相続税の基礎控除額は、次の計算式により求めます。
- 基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
たとえば、相続人が妻と実子3人の場合は、基礎控除額は5,400万円です。相続財産の総額が5,400万円以上なければ、相続税は課税されません。
法定相続人の数
法律上の相続権がある人の人数です。
基本的に、民法の規定によって算出します。注意点は、相続放棄があったとしても、相続放棄がなかったものとして計算する点です。
養子については、計算上、次のとおり法定相続人に含める数を制限される場合があります(一定の場合を除く)。
- 被相続人に実子がいる場合…養子1人まで
- 被相続人に実子がいない場合…養子2人まで
法定相続人に関する詳細は、当ページ「法定相続分」にて、法定相続分と併せて解説しています。
相続税の算出
相続税の算出には、大きく見て、次の3段階の計算をする必要があります。
- 各相続人の仮相続税額の計算
- 相続税の総額の計算
- 各相続人の相続税額の計算
1. 各相続人の仮相続税額
相続税は、第一段階として、各相続人が法定相続分どおりに相続したものと仮定して、各相続人の相続税額を算出します。具体的には、課税遺産総額を各相続人の法定相続分により按分した額を基準に、次のとおり計算します。
課税遺産総額×法定相続分 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,700万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
課税遺産総額
課税遺産総額は、次のとおり算出します。
- 相続財産
「プラスの相続財産」のことです。
具体的には、次の財産の合計です。
- 相続・遺贈・死因贈与による取得財産の価額
- みなし相続等による取得財産の価額
- Ex. 生命保険金額、死亡退職金額、債務免除額など
- 相続時精算課税に係る贈与財産の価額
- 相続開始前3年以内の贈与財産の価額
- 非課税財産
プラスの相続財産中、主に次のものが非課税財産となります。
- 債務
「マイナスの相続財産」です。
具体的には、次の債務のことです。
- 借入金の元本・利息
- 不動産などの購入代金
- 買掛金
- 入院費・治療費
- 税金・公共料金 など
なお、被相続人が生前に購入した墓の未払代金など非課税財産に関する債務は控除できません。
- 葬式費用
葬式費用は相続財産ではありませんが、相続税を計算するときは控除できます。
法定相続分
原則として、民法の規定により法定相続分を算出します。注意点は、相続放棄があったとしても、相続放棄がなかったものとして計算する点です。
相続開始時の関係者の存否 | 配偶者 | 直系卑属 | 直系尊属 | 兄弟姉妹 |
---|---|---|---|---|
直系卑属が存在 | 2分の1 | 2分の1 | × | × |
直系卑属が非存在 直系尊属が存在 | 3分の2 | - | 3分の1 | × |
直系卑属が非存在 直系尊属が非存在 | 4分の3 | - | - | 4分の1 |
- 配偶者
配偶者は常に相続人となり、他の相続人と共同相続します。
- 直系卑属
子や孫などです。
直系卑属中に親等が異なる者がいる場合、親等の近い者が先順位で相続人となり、後順位者は相続人となりません(代襲除く)。
同順位者が複数存在する場合は相続分を按分します。
相続開始以前に、先順位者が死亡・欠格・廃除によって相続権を失った場合、その者の子が相続人となります(代襲相続)。
計算上、次のとおり、養子について法定相続人に含める数を制限される場合があります(一定の場合を除く)。
- 被相続人に実子がいる場合…養子1人まで
- 被相続人に実子がいない場合…養子2人まで
- 直系尊属
父母・祖父母などです。
直系卑属が存在する場合、相続人となりません。
直系尊属中に親等が異なる者がいる場合、親等の近い者が先順位で相続人となり、後順位者は相続人となりません。
同順位者が複数存在する場合は相続分を按分します。
- 兄弟姉妹
直系卑属または直系尊属が存在する場合、相続人となりません。
兄弟姉妹が複数人存在する場合は相続分を按分しますが、半血の兄弟姉妹は全血の兄弟姉妹の2分の1の相続分となります。
相続開始以前に兄弟姉妹が死亡・相続欠格・廃除によって相続権を失った場合、その者の子が相続人となります(代襲相続)。
2. 相続税の総額
第二段階として、各人の仮相続税額を合算し、相続税の総額を算出します。
- 相続税の総額=各相続人の仮相続税額の合計
3. 各相続人の相続税額
最後に、相続税総額を各相続人の実際の分配割合で按分し、各相続人に適用される税額控除(配偶者控除・未成年者控除など)を差し引きます。なお、1親等血族以外の相続人(孫養子など)には、相続税が2割加算されます。
相続税の節税知識
一言で「相続税の節税対策」といっても、「誰が行うのか」に着目すると、次の2種類に分けることができます。
- 被相続人が生前に行う節税対策
- 相続人が相続後に行う節税対策
当ページでは、「相続人が相続後に行う節税対策」を概説します。
相続税が課税される場合でも、相続税の税額控除や不動産に関する特例措置などを活用した遺産分割をすることにより、相続税が減免されます。節税を意識せずに遺産分割・相続登記をして後悔することのないよう、事前に確認しておきましょう。
相続税の税額控除の活用
相続税を負担する相続人に一定の事情がある場合は、相続税額から各事情に応じた規定額を控除することができます。
相続税の税額控除は、次表のとおり各事情に応じて6種類あります。
税額控除の種類 | 控除対象者 |
---|---|
贈与税額控除 | 相続開始前3年以内に被相続人から贈与を受けて贈与税を納付した者 |
配偶者控除 | 被相続人の配偶者 |
未成年者控除 | 未成年者 |
障害者控除 | 障害者 |
相次相続控除 | 相次いで発生した相続の相続人 |
外国税額控除 | 国外資産を相続・遺贈によって取得し、外国で相続税に相当する税金を課税された者 |
各相続人の税額控除額を把握し、控除額の取りこぼしのないよう遺産分割をすることが、賢い相続税対策です。
1. 贈与税額控除
相続開始前3年以内に被相続人から贈与を受けて贈与税を納付した場合、納付済贈与税額(加算税・延滞税を除く)を相続税額から控除できます。
相続開始前3年以内の贈与財産は「みなし相続財産」として相続税の課税対象となるので、贈与税と相続税の二重課税を防ぐ趣旨です。
2. 配偶者控除
配偶者が実際に取得する正味の遺産額から、配偶者控除額を差し引くことができます。すなわち、配偶者控除額を超える正味の遺産部分のみが課税対象となります。
控除額は、次のうちどちらか多い方の金額までです。
- 法定相続分相当額
- 1億6,000万円
換言すれば、相続財産が1億6,000万円以下で、配偶者が全相続財産を遺産分割などにより単独相続する場合は、相続税は課税されません。
3. 未成年者控除
相続人が未成年者の場合、相続税額から次の金額を控除されます。
- 未成年者控除額=(20年-未成年者の年齢)×10万円
たとえば、相続時に12歳6カ月だった場合は、「20年-12年=8年」であるので、「8年×10万円=80万円」が控除されます。
なお、「未成年者の相続税額<未成年者控除額」の場合は、控除後の残額をその未成年者の扶養義務者の相続税額から控除します。
4. 障害者控除
相続人が障害者の場合、一般障害者か特別障害者かによって、次の金額が相続税額から控除されます。
- 一般障害者の障害者控除額=(85年-障害者の年齢)×10万円
- 特別障害者の障害者控除額=(85年-障害者の年齢)×20万円
たとえば、一般障害者が相続開始時に32歳6カ月だった場合には、「(85年-32年)×6万円=530万円」が控除されます。
なお、「障害者の相続税額<障害者控除額」の場合は、控除後の残額をその障害者の扶養義務者の相続税額から控除します。
- 一般障害者
次のいずれかに該当する人です。
- 児童相談所、知的障害者更生相談所、精神保健福祉センター、精神保健指定医の判定により、知的障害者と判定された人
- 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の規定により精神障害者保険福祉手帳の交付を受けている人
- 身体障害者福祉法の規定により交付を受けた身体障害者手帳に、身体上の障害がある人として記載されている人
- 精神又は身体に障害のある年齢が満65歳以上の人で、その障害の程度が上記1・3に掲げる人に準ずるものとして市町村長等や福祉事務所長の認定を受けている人
- 戦傷病者特別援護法の規定により戦傷病者手帳の交付を受けている人
- 特別障害者
次のいずれかに該当する人です。
- 常に精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態にある人
- 上記1のうち重度の知的障害者と判定された人
- 上記2のうち障害等級が1級と記載されている人
- 上記3のうち障害の程度が1級又は2級と記載されている人
- 上記4・Aのうち特別障害者に準ずるものとして市町村長等や福祉事務所長の認定を受けている人
- 上記5のうち障害の程度が恩給法に定める特別項症から第3項症までの人
- 原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律の規定により厚生労働大臣の認定を受けている人
- その年の12月31日の現況で引き続き6ヶ月以上にわたって身体の障害により寝たきりの状態で、複雑な介護を必要とする人
5. 相次相続控除
たとえば、父が亡くなった2年後に母が亡くなった場合は、父の相続で母が負担する相続税額を限度とする一定額を、母の相続の相続税額から控除できます。この制度が「相次相続控除」です。
相次相続控除の主な適用要件は次のとおりです。
- 第1次相続と第2次相続が10年以内に相次いで発生したこと
- 第2次相続の被相続人が第1次相続により相続税を課税されたこと
- 第2次相続の相続財産を相続・遺贈により相続人が取得したこと
- 上記3の相続人が相続放棄者・相続欠格者でないこと
短期間に複数の相続が開始すると、同じ財産に2度課税されることになって納税者の負担が大きくなるため、その加重負担を防ぐために、相次相続控除制度が存在します。
相次相続控除の控除額は、次の計算により求めます。内容の理解のため、本来の計算式よりも簡素化します。
- 減額1: 第1次相続の遺産残存率
たとえば、母が父の遺産(債務・相続税控除後の残額)2億円分を相続していた場合に、母が亡くなった時点の母の遺産が1億8,000万円だったとき、母が自らの形成財産から消費していたとしても、父からの承継遺産が少なくとも2,000万円は目減りしたことになります。この事例では、父から承継した遺産の残存率は「1億8,000万円÷2億円=90%」となります。
- 減額2: 経過年数による補正率
第1次相続からの経過年数1年につき、10%減額されます。
たとえば、父が亡くなった2年後に母が亡くなった場合、補正率は「100%-(10%×2年)=80%」となります。
6. 外国税額控除
国外資産を相続・遺贈によって取得した場合に、外国で相続税に相当する税金を課税されたときは、二重課税を防止する趣旨で、次のうちどちらか少ない方の金額までを、相続税額から控除することができます。
- 外国で課税された相続税に相当する税金の額
- 相続税額中、取得した国外財産に対して課税された部分の額
たとえば、相続税が200万円課税される場合に、取得した相続財産の9%が国外財産だったときは、外国で相続税に相当する税金を18万円以上課税されていても、控除額は18万円までしか認められません。
不動産に関する特例措置の活用
相続財産の中で高額なものといえば、一番に「不動産」が思い浮かびます。高額である半面、居住用または事業用だった不動産については、相続税法上の優遇措置があります。
制度名 | 用途 | 優遇措置の概要 |
---|---|---|
小規模宅地等についての 相続税の課税価格の計算 の特例 | 居住用 | 330m2までの部分→80%減額 |
事業用 | 事業内容に応じて、次のどちらか
| |
山林に係る相続税の 納税猶予制度 | 事業用 (山林) | 課税価格の80%に対応する相続税 の納税猶予 |
小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例
被相続人等の居住用または事業用だった宅地等(限度面積までの部分)について、一定要件のもと、課税価格を大幅に減額させることができます。
- 被相続人等
被相続人または被相続人と同一生計だったその親族です。
- 宅地等
建物・構築物の敷地に供されている土地または借地権です。
次のものについては、この特例の適用を受けられません。
- 棚卸資産・棚卸資産に準ずる資産
- 相続開始前3年以内に贈与により取得した宅地等
- 相続時精算課税に係る贈与により取得した宅地等
上記の土地に正規に相続税を課すと、居住や事業を継続できなくなる恐れがあるため、この特例が設けられています。
居住用だった宅地等の場合、取得者別の一定要件(配偶者は要件なし)のもと、330m2までの部分につき、80%の減額が認められます。
事業用だった宅地等の場合、宅地等の保有継続・事業承継などを要件に、事業内容に応じた限度面積までの部分(200m2または400m2)につき、50%または80%の減額が認められます。
複数の不動産を相続した場合、いずれか2以上の宅地等を選択して、本特例の適用を受けることができます。
ただし、特例を適用する宅地等のうちに貸付事業用宅地等がある場合は、下記調整計算による算出額(限度面積)が200m2以下の部分のみが特例の対象となります。
- A = (居住用の宅地等の適用面積の合計)×200/330
- B = (貸付事業を除く事業用等の宅地等の適用面積の合計)×200/400
- 限度面積 = A + B + 貸付事業用の宅地等の適用面積の合計(≦200)
山林に係る相続税の納税猶予制度
林業経営者から相続・遺贈によってその所有山林を一括取得した相続人が山林経営を承継する場合に、一定の要件を満たすときは、山林に係る課税価格の80%に対応する相続税の納税が猶予されます。
納税が猶予された相続税額(山林納税猶予税額)は、林業経営を承継した相続人(林業経営相続人)の死亡により免除されます。
山林納税猶予税額の免除前に、山林経営の廃止や山林の譲渡・贈与・転用などの一定事由が発生した場合、山林納税猶予税額の全部または一部について納税の猶予が打ち切られ、その税額と利子税を納付する必要があります。
相続財産を譲渡した場合の取得費の特例の活用
相続税の節税ではありませんが、相続した財産を一定条件のもとに譲渡した場合、相続税額のうち一定額について、譲渡資産の取得費に加算できる特例があります。すなわち、特例の利用により、譲渡所得による所得税・住民税が節税できます。
本特例を受けるための条件は、次のとおりです。
- 相続・遺贈により財産を取得すること
- 棚卸資産・準棚卸資産であった土地等、物納した・物納申請中の土地等は含まれません
- 相続税が課税されていること
- 相続財産を、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡していること
譲渡所得について、不動産売買に関する税金 - 譲渡所得をご覧ください。
土地等を売った場合
土地・借地権を売却した場合、次のいずれか低い方の額を加算できます。
- 売主に課税された相続税額のうち、売主が相続や遺贈で取得したすべての土地等に対応する額
- この特例を適用しないで計算した譲渡所得の金額
土地等以外の財産を売った場合
土地等以外の財産とは、建物や株式などを指します。
これらの財産を売却した場合、次のいずれか低い方の額を加算できます。
- 売主に課税された相続税額のうち、譲渡した財産に対応する額
- この特例を適用しないで計算した譲渡所得の金額